税務調査について

税務調査にはどのような種類があるのか

 税務調査には、申告税額を調査する「課税の為の税務調査」と、税金滞納者に対して本当に税金が納められないのかを調査する「徴収の為の税務調査」、そして通常の税務調査と一線を画し、刑事事件に属する「犯罪の為の税務調査」いわゆる「査察」がある。一般的に査察は税額で約一億円以上でないと行われないと言われている。つまり、通常入る税務調査は「課税の為の税務調査」ということになる。しかし、課税の為の税務調査にもかかわらず査察を思わせる税務調査が行われているのも事実である。まるで査察ばりになんでもできるという態度で税務調査にやって来る為、調査を受ける側は査察と誤解してしまう。しかし、このような態度にだまされないでいただきたい。課税の為の税務調査はあくまでも任意であり、査察と違い何でもできるわけではないのである。

 

●質問検査権の行使は無制限に認められるのか

 前項で述べたように税務調査は任意である。よって税務調査つまり調査官が質問し検査する権利「質問検査権」の行使は無制限に認められるものではないのである。これを如実に物語っているのが「北村人権侵害事件」である(保団連発行「保険医への税務調査」〈2000年改訂版〉三九頁参照)。この北村人権裁判で明確にされたのは、税務調査は査察と違い任意調査である為「納税者本人の承諾を得なければならない」という点である。つまり、金庫にかってに触ることや、机をかってに開けること、診療室にかってに入り込むなどの行為は許されず、必ず納税者本人の承諾を得てから行われなければならないということである。また、この裁判が画期的だったのは「暗示の承諾」を認めず、「明示の承諾」を得なければならないとした点である。これまでは、仮に税務調査側の「診療室に入りますがいいですか」との問いかけに対して無言であれば承諾したものとみなされていた(暗示の承諾)。しかし、北村人権裁判ではこれを認めず「はいどうぞ」等納税者が意思表示を示さなければ承諾したと認められないとした点である(明示の承諾)。さらに、税務調査時の第三者の立ち会いについては、従来守秘義務を理由に認められていなかったが、これを認めるとしたのである。

 

●事前通知なしに調査に来たときにはどう対処するのか

 自分の都合、スケジュール等を考慮し、時間がとれない場合ははっきりと断ってかまわない。また、いつなら時間がとれるのかをこちらから指定する。けして調査拒否にはあたらないのである。

 

●調査理由を聞いてもはっきりと理由を言わないときは

 通常調査理由について聞いてもあいまいにされはっきりと理由を言わない。しかしこれでは調査する側に主導権を握られてしまう。申告書のどの部分に疑問を抱いているのかを問いただし、調査の範囲を狭めていくことは大変重要なことである。疑問があるところのみを調査させることを「争点主義」と言い、これが理想である。また、前項で述べたように、調査の日時・期間等もこちらから指定し、調査の時間も狭めていく。このようなことが調査を受ける側が主導権を握ることにつながっていくのである。

 

●反面調査はどのような場合に認められるのか

 通常反面調査は認められない。反面調査が認められるのは帳簿類も取り引き上の資料もない等の場合のみで、特に金融機関への反面調査は「銀行調査証」が必要となる。また、最悪銀行に反面調査に行きそうな場合は、医業に係わる取り引きの部分だけを見せるよう銀行に指示し、それ以外はプライバシーの観点からも見せないように指示すべきである。

 

●カルテや事件簿は自由に調べることができるのか

 カルテを見せる必要がないのは当然のことである。調査官は守秘義務を主張してくるが、医師が守らなければならない刑法が法的に上であることは周知の通りである。しかし、実際カルテを持ち帰る調査官がいるのも事実のようである。もし、カルテの提示を求められるようなことがあったら、前項でも述べたように、どの部分に疑問を抱いているのかを聞き、口頭で説明すればよい。カルテを見せる必要は一切ないのである。調査官が持ち帰る等は言語道断である。通常疑問を抱くのは公費の部分ではなく、自費の部分のようである。また、窓口の徴収額と点数のバランスなどについて質問してくることが多い。

 

●調査官の権力的な言動に対してどう対処するのか 

 調査官には紳士的な人もいれば非常に高圧的態度の人もいる。この高圧的態度の調査官に対してどう対処すればいいのか。毅然とした態度で抗議することが大切である。憲法十六条には「請願権」が保障されているし、「請願法」も制定されている。是非常識的範囲から逸脱している言動に対しては、税務署に対して請願書を提出していただきたい。

 

●税務職員は帳簿書類を持ち帰ることができるのか 

 税務調査が夕方の遅い時間にさしかかると、調査官は帳簿類を持ち帰ろうとする。これは、税務署に持ち帰り帳簿類のコピーをとり反面資料を作る為である。つまりこうなると徹底的に調べ上げられることになる。調査官より帳簿類を持ち帰りたい旨の話があったら、是非こう応えていただきたい。「遅くまで時間がかかってもかまわないのでここでしっかり見ていってください。疑問点があったら即この場でお答えします」と。

通常の税務調査、質問検査権では査察と違い法的に押収の権限は有していない。

何時間も何日も調査官に付き合うのは御免と、安易に帳簿類を調査官に持ち帰らせる人もいるようだが絶対やめていただきたい。

 

●家族事業専従者・従業員は質問検査権の対象者なのか

 家族専従者や従業員に対して質問検査することが法律上許されているのかという点であるが、法律上許されている範囲は、事業者(医師)と専従者または看護婦等のスタッフとの間に金銭の給付に関する取り引き、つまり給料等のやり取りがあった場合に、その取り引きの部分に関してのみ質問検査権を行使できることになっている。しかし実際は、その部分以外に関しても聞き取りを行うことが多いので、これに関しては拒否するようにしなければならない。

 

●質問検査権が法的限界を超えて行使された場合は無効か

 質問検査権が法的限界を超えていれば法律上受ける義務はなくなる。前項でも述べた北村人権裁判でも明らかなように、法的に無効となる。

 

●質問検査権には立入権があるのか

 前項でも述べたように、診療室に無断で入る等の行為は許されておらず、「明示の承諾」を得なければならないとされている。もし、診療の迷惑になる等の理由がある場合は、きちんと入室を断っていただきたい。

 

●税務調査に際して第三者の立ち会いは認められるのか

 前項で述べた「北村人権裁判」でも明らかなように第三者の立ち会いは認められるべきものである。

 

●質問検査権の行使で事前調査はできるのか

 「事前調査」とはまだ申告書を出していない部分を調査することで、これは認めらていない。冒頭でも述べたように日本はあくまでも「申告納税制度」であるので、申告の終了したものについてのみ、疑問があった場合に質問・検査することができるのである。しかし実際はこの事前調査が多々見られるようである。特に多いのが現在の現金残高が帳簿とあっているかを確認する「現金実差」が多く行われているようである。

 

●「指導」なので協力くださいと来訪があったらどうするか

 「指導」と称して税務署が訪問してくることがある。

特に申告前の時期に多いようだが、このような場合、「指導が必要なときはこちらからお願いに行きますので…」と断っていただきたい。

 

●修正申告をすすめられたらどう対処するか

 安易に修正してしまうと異議申立てや審査請求ができなくなる。つまり自分が納得できない部分の権利主張ができなくなってしまうのである。修正とは自分に誤りがあったことを認めて行う行為だからである。もし納得できない部分に関して修正申告を求められた場合は、税務署長の職権で「更正」してほしいと願い出てほしい。「更正決定」の場合は、異議申立てや審査請求、裁判に訴える等の納税者の権利が残ることになる。

 

●税務官庁から提出された「照会文書」にどう対処するか

 税務官庁から頻繁に「照会文書」が送られてくるが任意のものに関しては回答する必要はない。回答しなければならないのは法律で定められた文書のみである。

戻る