貸家を無断で改築されてしまったので、借主との契約を解除し、立退きを求めたところ、借主はこれに応じてくれず、家賃を供託して、現在、家屋の明渡し等をめぐり裁判で係争中です。家賃が供託されるようになってすでに3年もたちますが、供託金を受け取ると明渡しを求めることはできないのでしょうか?
A、供託金をそのまま受け取ると、特段の事情がないかぎり、貸主は、借主のなした供託の効力を認めたものとして解除の意思を撤回したものとみてよいとするのが判例(昭和35年大阪高裁ほか)です。
そこで貸主が、解除の効果はそのままとしつつ、供託金を受け取る方法ですが、通常まず、借主に対し内容証明郵便で供託金は現在の家屋不法占有による損害金の一部として受領する旨をあらかじめ通知しておくことです。そうして後、法務局で供託金を受け取るわけですが、その際には、払渡請求書の還付欄の供託受諾に○をつけ、さらに、備考欄に「損害金の一部として受領する」旨を記載しておくことを忘れないでください。つまり、貸主の側からみれば、すでに契約が終了しているので、借主は家屋に不法に居住していることになり、毎月家賃相当額かそれ以上の損害を貸主に与えているもので、その損害金を受け取る形をとるわけです。
なお、この事例ではありませんが、家主の家賃増額の申入れに応じない借主が家賃を供託することがしばしばみられます。その際にも、家主は上記と同様の手続きをとり、増額家賃の一部として供託を受け取る旨を通知し、供託金の払渡請求書の備考欄に「増額家賃の一部として受領する」旨を記載しておけば、供託金を受領しても、それまでの家賃増額の主張を撤回したとみなされる心配もなく、安心して供託された家賃を受領することができます。
<供託>
相手方が、(1)弁済のための金銭の受領を拒否する場合、(2)所在不明等のため受け取らせることができない場合、(3)誰に債務を弁済すればよいかわからない場合には、債務の目的物(具体的には、金銭・有価証券・その他の物品)を供託所(法務局または法務局の出張所で、通常供託課という名前がふされている)に寄託させることによって、支払いなどの債務を免れることができる。通常、これを供託という。
供託には、上記のような弁済代用のために行われるもののほか、後の支払い(たとえば裁判で決着がついた後の支払い)を確保するなどの担保のためや、商法などの規定に基づき傷みやすいものを金銭にかえて保管するためなどにも用いられる。
弁済代用の供託をした場合には、これによって供託者は支払義務を免れ、供託を受けた方は供託所に対して供託物の交付を請求する権利(供託物還付請求権)を取得するが、被供託者が還付を受けるまでの間は供託者の方で保管を撤回して供託金を取り戻すことができ、その取戻しがなされた場合には供託はしなかったものとみなされる。
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